一流から学ぶべきは、スキルではなく「人格の切り替え」

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第63回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著『人は、誰もが「多重人格」 - 誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。

別の人格を表に出すと開花する才能

前回まで、才能を開花させるためには、「多重人格のマネジメント」が重要であること、その中でも、まず、自分の中にある「表層人格」を、場面や状況に応じて適切に使い分けることが重要であることを述べた。

ここで、「表層人格」とは、ある状況では隠れているが、他の状況では、すでに表に出ている人格のことである。

前回述べたように、筆者の場合には、自分の中にある「話好きな、明るい人格」は、大学のクラブ活動での友人関係においては、表に出していた人格であるが、実社会の職場では、入社当初、あまり表に出さなかった人格である。

しかし、ひとたび、その人格が仕事において大切な役割をすると気がついてからは、職場でも、それを意識的に表に出すように努めた。そして、その結果、自分の中から営業プロフェッショナルとしての才能が開花していった。

その経験から、後年、マネジャーとして、また経営者として様々な職場を見てきたが、かつての筆者と同様、どの職場にも、「同僚や友人などと気楽に話しているときの、あの人格を、仕事でも、もっと前に出せばよいのに」と思うメンバーがいる。

では、なぜ、この人は、そうできないのか。

その一つの理由は、「自意識による抑圧」である。

人格を抑圧してしまう「自意識」

すなわち、「職場でこうした人格を表に出すと、周りから誤解されるのではないか」という自意識や、「上司からの評価が落ちるのではないか」という自意識、さらには「自分を優秀に見せたい」や「自分を格好よく見せたい」という自意識が、その人格を表に出すことを抑圧してしまうのである。

もとより、そうした自意識は誰の中にもある。新入社員の頃の筆者にも、そうした自意識があったが、その自意識の壁を壊してくれたのが、前回述べた上司の一言、「君は、真面目過ぎて、周りが近寄りがたいと言っているよ」という言葉であった。

その意味で、部下の中にある「隠れた人格」を見出し、表に引き出し、「隠れた才能」を開花させていくためには、やはり、上司の役割は大きいと言える。

しかし、職場のメンバーの中には、上司が「仕事において、あの人格を、もっと前に出せばよいのに」と思い、そのことをアドバイスし、「自意識による抑圧」を解くように努めても、なかなか不器用で、人格の切り替えができない人もいる。

では、こうしたメンバーが「人格の切り替え」をできないのは、本当に「不器用さ」が原因なのか。

実は、生活の他の場面では表に出している「表層人格」であるにもかかわらず、それを仕事の場面で表せない場合、そのメンバーの本当の問題は、「不器用さ」ではない。

では、何が問題か。

「不器用さ」とは、実は基礎体力の欠如のこと

その本当の理由は、実は、「基礎体力」が無いからである。

「基礎体力」とは、「精神的基礎体力」のことであり、端的に言えば、「精神のスタミナ」が足りないからである。

なぜなら、「人格の切り替え」ということは、単に一つの人格からもう一つの人格に切り替えるという行為ではなく、「これまで表に出していた人格」に、「これまで表に出していなかった人格」を加えて、それら「複数の人格」を、場面や状況に応じて適切に使い分けるという行為だからである。

そのため、それを実際に行おうとすると、「置かれた場面や状況の判断」「周囲の人間の心境の感知」「適切な人格の選択」「自然な人格の切り替え」という一連の作業を、瞬時に行う必要があり、それには、相応の集中力が求められる。

従って、それは、「精神的基礎体力」、すなわち「精神のスタミナ」が求められる行為であり、裏返して言えば、「精神的基礎体力」が無ければ高度で複雑な行為である「人格の切り替え」はできないと言える。

すなわち、「人格の切り替え」ができない人は、「不器用」なのではなく、「基礎体力」が無いのである。置かれた場面や状況に応じて「人格の切り替え」が必要であることを理解し、それを実行しようと思っても、そのことを実行するだけの「基礎体力」が無いのである。

そして、このことを別な角度から見るならば、我々が、仕事において「表の人格=ペルソナ」を選んで被る一つの理由が分かる。

一流のプロは例外なく精神的スタミナが高い

それは、「そうした方が楽だから」である。

いちいち場面や状況に応じて「人格」を切り替えていては、「疲れる」からである。

逆に言えば、場面や状況に応じて、自然に、滑らかに「人格」を切り替えられる人は、例外なく、「精神的基礎体力」に優れ、「精神のスタミナ」が高いレベルにある人である。

そして、その「精神のスタミナ」が高いレベルにあるということは、分野を問わず、職業を問わず、「仕事ができる人」の基本的な条件であり、「一流のプロフェッショナル」への絶対的な条件でもある。

さて、このことを理解すると、「表層人格」を開花させる技法として、次の第三の技法の大切さを理解することができるだろう。

それは、

「仕事のできる人」が、仕事でどのように「人格」を切り替えているかを、観察する

という技法である。

では、「観察する」とは、具体的にはどのようなことか。

一流プロの「人格の切り替え」を間近で観察する

一例を挙げよう。

もし、企画プロフェッショナルとして「仕事のできる人」から「人格の切り替え」を学ぼうと思うならば、その人が主宰する企画会議などに参加し、その人が「人格」を切り替える瞬間を、注意深く観察することである。

例えば、発散気味に進んできたアイデア出しの会議を、後半、まとめモードに切り替えるときの「人格の切り替え」などを観察することである。その人が、それなりのプロフェッショナルならば、前半で表に出している人格と、後半で表に出す人格が違っていることに気がつくだろう。

それが、この連載の前半で述べた「始め民主主義、終わり独裁」の人格切り替えである。

それ以外にも、「そのアイデア、面白いね」といった激励モードの人格と、「うーん、こんなアイデアしか出ないのか…」という辛口モードの人格の切り替えなど、一流の企画プロフェッショナルを見ていると、実に、色々な人格が出てくる。そして、その「人格の切り替え」を見ていると、実に勉強になる。

すなわち、このように、企画であっても、営業であっても、プロジェクトマネジメントであっても、「仕事のできる人」と一緒の会議や会合、商談や交渉に出て、その人が「人格の切り替え」を行う瞬間を、注意深く観察することである。

そして、次に、自身も、自分が主宰する会議や会合などにおいて、その「人格の切り替え」を試みることである。それを自覚的に行うだけで、確実に、自分の中に様々な人格が育ち、様々な才能が開花していく。

しかし、実は、その「人格の切り替え」の学びをするためには、「一緒の会議に出る」という以上の技法がある。

それは、何か。

「かばん持ち」をすることである。

(田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 田坂広志

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